Non-Duality Speaker , Early Buddhist Philosophy Teacher

「~じゃん」は本当に神奈川方言か

私は北海道で生まれ育った。
幼少の頃に「~じゃん」という言葉遣いをしていたか記憶が定かではないが、現在は親しい間柄に限って日常的に使っている。それはプライベートの範囲を超え、職場での同僚とのやり取りでも使えたし、そこに違和感はなかった。

たまたま方言について調べていると、「~じゃん」は神奈川県の方言であると知った。確かに北海道方言といえば「~(っ)しょ」「~べ」「~だべ」「~だべさ」「~だべや」「~でや」が北海道らしい語尾であり、「~じゃん」は標準語の感覚で使っている。「~じゃん」を北海道方言だとは思わないが、標準語のつもりで使っていたのに、神奈川方言だといわれると「なぜ北海道でよく耳にし、漫画でもよく見かけるのか?」という疑問がわいた。
しかし、それから数十年がたっても、やはり「~じゃん」は神奈川方言だといわれ、ときどき調べても神奈川方言だとしかわからなかった。
私の解釈としては、テレビや映画、漫画などをきっかけにして若者が中心に使い、全国に定着したのだろうと推測していた。

一昨日、たまたま「~じゃん」起源について好奇心がよみがえり、今ならネットに新しい情報があるのではないかと考えて検索してみた。
「じゃん」は絹の道から?」(2014年12月11日付)に興味深い記載があった。
ニュースで報道されたそうだが、「~じゃん」が市民権を得た理由として『日本語ウォッチング』(井上史雄著、岩波新書刊)に詳しく書かれているという。
群馬の富岡製糸場が近代日本において重要な産業で、全国から工女が集まり働いていた。その工女たちが使っていた言葉だという。特に神奈川方言として定着したのは、貿易港があったからだとした。妙に説得力がある。「~じゃん」は静岡で古くから使われていて、貿易港がある横浜に伝わったのだろうとした。
このサイトでは『信州のことば』(馬瀬良雄著、信濃毎日新聞社刊)の説も紹介している。長野で使われる「~じゃん」は山梨甲府から由来だという。愛知三河で使われていた「~じゃん」も古いので、徳川家が東日本に広めたのではないかとも推察されているらしい。
これらの資料から、サイト執筆者は三河と長野を結ぶ三州街道と、長野と関東を結ぶ甲州街道の存在から、生糸の貿易ルートがあり、工女が広めたのだろうと結んでいる。

しっくりこない。霊感的にというか、インスピレーションとしては違うと思われた。
私はこの違和感を言葉に表してみようと試みた。三河と甲府と神奈川はそれぞれ違う起源の「~じゃん」を使い、全国で使われている「~じゃん」は「~じゃない」の「ない」が「ん」に変化したものと考えた。そもそも「~じゃない」の「じゃ」も「では」からの変化である。「~じゃない」も市民権を得たのか、そもそももともと標準語なのかは調べていないが、「ない」が「ん」に変化したとしても違和感がない。
つまり、各地の「~じゃん」は由来も用法も違い、全国的に定着した「~じゃん」は「~ではない」が「~じゃない」に変化し、さらに「~じゃん」に至ったもので、標準語が変化したものということである。

私はそれを裏付ける情報がないか、さらにネットで検索をかけた。そして、ついに見つけた。
方言「じゃん」の地域別の意味と使い方|愛知/静岡/山梨/九州/北海道」である。
このサイトでは各地の意味の違いを網羅している。私のインスピレーションどおりのアプローチだ。
三河弁では「~じゃん」の意味は「~(な)んだけどね」だという。静岡でも同じ意味であり、同じ由来だという。
甲州弁では「~じゃん」の意味は「~でしょう?」だという。
三河では「昨日すきやきだったんだ」といった過去のことで「昨日すきやきだったじゃんね」と使い、甲府では「明日お祭り行くよね?」といった未来のことで「明日お祭り行くじゃんね?」と使うのだ。
私が知っている「~じゃん」の意味とはぜんぜん違うのだ。

さて、肝心の神奈川方言ではどうかである。はたして、全国に普及した「~じゃん」と同じ意味なのだろうか。
神奈川方言としては、静岡や甲府から伝わった方言ではなく、相模、湘南、横浜あたりで古来使われてきた独自の方言だという。
神奈川方言では「~じゃん」は「~よね」となるらしい。全国で使われる意味にとても近い。
私は何事も慎重に取り組みたいたちなので、本当に神奈川の相模地方、湘南地方、横浜地方で使われていた古来の用法と、全国で使われている用法が同一なのかはとても気になる。

私の地元北海道では、全国に広まった「~じゃん」の意味とまったく同じ使い方である。テレビや映画、漫画などでの使われ方と同じなので、その影響であることはほぼ間違いない。
もし「今日は暑いよね」の意味で「今日は暑いじゃん」と使うなら、全国的に使う用法と微妙に違うように感じる。
全国で使われる場合の意味は「今日は暑いじゃん」は「なんだ、今日は暑いじゃないか」といったニュアンスを含んでいる。
「今日は暑いよね」も「なんだ、今日は暑いじゃないか」も同じ「今日は暑いじゃん」と表現される場合、それは微妙に意味が違い、違う由来の言葉だと推測することができる。
それをもって全国の「~じゃん」の由来は神奈川方言ではなく、「~ではない」からの変化であって、標準語が由来であるといえる。

これらの理由から、ふたつめに紹介したサイトでの結論についても納得できないし、言語学的に課題が残ると思われた。
古来の神奈川方言で「今日は暑いじゃん」に「なんだ、今日は暑いじゃないか」の意味があるのか、ぜひネイティブ・スピーカーのかたからお話を聞きたいものだ。

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